Heartbeat in the bulb

心拍を電球に保存する装置


この装置は電球の中に自分の心拍を保存しておく装置です。今この瞬間の自分(心拍)を電球の中に光の明滅として保存しておき、数年後に見返すことで、過去の自分に思いをはせることができるというコンセプトで製作しました。電球の明滅のはなかくも、力強い光が、過去に保存したその人の魂の一部や思い出も含めて保存されているように見えます。電球自体がガラスでできた入れ物のように見えることから、光っていない状態であっても、その中に保存されている心拍やそれに紐づいた思い出を想起させ、その思い出に思いを馳せることができます。電球にはダンボールで作った専用の箱に入れて保管し、その箱には「心拍を保存した日時」や誰の心拍であるかがわかるように「名前」を記入します。
電球に心拍が保存されているコンセプトをよりリアルな体験とするために、「電球ごとに別々の心拍が保存されており、電球を差し替えれば、その電球に保存されている心拍が蘇る」ようになっています。それをどのように実現しているかは以下の詳細を読み進めて言っていただけますと幸いです。









以下、詳細

詳細な作品説明

記念日や嬉しいとき、悲しいとき。この装置は人生の大切な一瞬の心拍を電球の中に保存し、その心拍を電球の明滅として再生する装置である。体験者は電球を1つ選び、その中に保存された過去の心拍を再生したり、自分の心拍を保存することができる。再生される淡く、しかししっかりした周期で刻まれる電球の明滅は、命の儚さと力強さをあらわしているようにも見え、心拍を保存する行為は電球というガラスの球殻の中に今この瞬間の自分の分身を保存しているような感覚を与える。体験者は電球の中の自分の心拍を見ることで今の自分を客観的に見つめ、過去の自分に思いを馳せることができる。例えば将来の自分や大切な人に向けて心拍を保存するという使い方もできるだろうし、人生の重要なイベントや辛い自分を忘れないように保存するなどの使い方ができる。またその光が自分以外の心拍であればその人の存在を電球の中の光に強く感じることになる。例えば故人が生前に残した心拍であれば、それはその人の生きた証であり、残されたものはその心拍を見ながら故人を思うことができる。
この装置にとって電球は照明ではなく情報の表示装置であり記録媒体としての役割を担い、メディアの定義を曖昧にしている。さらに電球のONとOFFの1ビット(1画素)という非常に少ない情報しか表示していない。しかしその光がいつの、誰(自分か他の人か)の心拍であるか思いを巡らせることにより体験者に表示しているよりもはるかに多くの情報を提示する。 スマートウフォッチの登場により心拍を24時間、ライフログとして記録する人も少なくない。 この装置は今この瞬間という大きな制約がある。しかしそれがかえって今のこの瞬間という意味を強く意識させることになる。


仕組み

電球に心拍を保存するためには、心拍を測定する必要がある。体験者に負荷なくできるだけ簡単に心拍を取得できるよう、光学式のセンサーを用いて指を置くだけで測定できるようにした。測定した心拍(心拍数)の周期に合わせて電球への電源AC100V(交流)を電気的に入り切りすることで心拍数を電球の明滅に落とし込み心拍を再生している。
この作品にとって、電球は表示器だけでなく、心拍を保存している入れ物の役割も担っている。そのため、電球を入れ替えればその電球に保存されている心拍が蘇る必要がある。しかし、実際に電球に心拍を保存することはできない。そこでこの装置自体が「今、どの電球が装置に刺さっているか」を検知し、「その電球に紐づいている心拍を再生する」という動作をしている。また心拍を保存するときに「その電球に紐づいている心拍を装置側のメモリ領域に保存する」という動作を行っている。
「今、どの電球が装置に刺さっているか」の検知には、電球それぞれのフィラメントの個体差、すなわち抵抗値の違いに注目した。装置起動時(電球の明滅や心拍数の測定前)に電球に微弱なDC(直流)の電圧をかけ、電球からの出力を測定する。この時の電圧は微弱なため電球が光ることはない。そして測定した値が電球ごとに異なるため、装置に取り付けられた電球がどれであるが判定できる。そして装置本体に保存されているその電球に紐付いた心拍数で再生する。そうすることであたかもその電球に保存されている心拍が再生されているように見える。心拍を保存するときは電球に紐付いた心拍数に上書きしている。このようにして電球の中に心拍が閉じ込められているようなコンセプトを表現している。このDC回路とAC回路はリレー回路を介して独立しており、同時に電球に接続することはない。
操作方法についても、ボタンが多くなればなるほど、体験者の操作が煩雑となり、作品のコンセプトに集中できなくなる。そこで「電源スイッチ(黒色)」と、「心拍を保存するためのスイッチ(白色)」の合計2個だけとした。電球の個体差の測定と明滅開始は「電源スイッチ」に紐づいており、保存するときだけ「心拍を保存するためのスイッチ」を押せばよい。
また作品形状は装置らしさをだすために、電球を逆さまにして指すことで、真空管アンプのような風貌にしている。その一方で筐体はあえて木材(MFD板)を用いることで、見た目や筐体に反射する光をやわらげることで温かみを出している。



プレゼンスライド

過去にこの作品についてプレゼンする機会をいただいた際に作成したスライドです。詳しいコンセプトや仕組みなども載っていますので、ご覧いただけますと幸いです。

Heatbeat in the bulb from kasanetarium


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